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安全性

フッ化物による中毒症状

フッ化物洗口は、簡単で虫歯の予防効果が高く、さらに費用対効果の点から言っても、非常に優れた方法ですが、その安全性はどうなのでしょう。
 「洗口法」自体は歯にフッ化物を作用させることが目的であり、飲用して全身応用を期待するものでありません。歯科医師の指導のもと、歯科医師あるいは薬剤師が、適切に薬剤を処方、調剤、計量を行い、施設での厳重な薬剤管理のもと、決められた時間うがいをする、終わったら吐き出すという正しい方法で行われたフッ素洗口は安全性にまったく問題はありません。
 洗口の際、万が一誤って全量飲み込んだ場合でもただちに健康被害が発生することはないと考えられている方法であり、急性中毒と慢性中毒の試験成績の両面からも理論上の安全性が確保されています。ではフッ化物による中毒症状とはどういうものでどんな場合に起こりうるものなのでしょうか。

1. 急性中毒

フッ化物の急性中毒については多くの報告がありますが、多くはフッ化物製剤の誤用や大量摂取などとされます。最近20年間、フッ化物の歯科的応用の拡がりにより外国では歯科用薬品に関連しての事故例が多くなっています。しかし、わが国では、フッ化物製剤は先進諸国ほどには普及しておらず、また管理が行き届いているせいか、中毒例は極めて少ないと言えます。とくにわが国では家庭で用いるフッ化物錠剤が無いことが中毒例の少ない原因となっています。フッ化物による急性中毒は、フッ化物をどのくらいの量飲み込むと起こるのでしょうか。研究者が自分を被験者とした実験を例外とすると、人での中毒実験は不可能なので、その中毒量はもっぱら過去の過剰摂取による事故例から導き出した「推定値」であり、これを『フッ化物の推定中毒量・PTD(probably toxic dose)』と言います。
 わが国の(財)日本中毒症情報センターは人のフッ化物経口投与中毒量を次のようにまとめています。
中毒量:約5~10mg/kg
消化器症状は約3~5mg/kgで生ずる。
欧米諸国でもおおむねこの数値が支持されているようです。急性中毒の主な症状は腹痛、 嘔吐、下痢などであり、進行すると痙攣を起こすことがあります。一般に急性中毒の処置は毒物の除去と対症療法に分けられますが、毒物の除去が優先されます。その方法は希釈(薄める)、催吐(吐かせる)、胃洗浄(胃の中を洗う)です。経口摂取量が少ない場合はカルシウム含有の飲料(牛乳など)を飲ませて経過を見ることもありますが摂取量が多い場合は入院加療が必要で、嘔吐させ、カルシウム製剤を投与します。

2. 慢性中毒

フッ化物の過量摂取による慢性中毒症としては、「歯牙フッ素症(斑状歯)」と「骨フッ素症(骨硬化症)」が疫学的に確認されています。

・ 「歯牙フッ素症(斑状歯)

フッ化物の過剰摂取により、歯に褐色の斑点や染みができる症状を指します。中等度の症例では、エナメル質にいくつかの白い点や小さな孔が生じ、より重症だと、茶色い染みが生じます。歯のフッ素症は、6ヶ月から5歳までの歯の発生期にフッ化物を過剰摂取すると生じます。口腔に萌出した歯には、発生しません。

歯牙フッ素症(斑状歯)

・ 「骨フッ素症(骨硬化症)

比較的高濃度のフッ化物を長期間摂取していると、骨フッ素症が生じえます。例えば、フッ素濃度が8ppmを超える飲料水を20年以上使用している人口集団に、骨フッ素症が見られると言われています。初期の症状は、骨のエックス線不透過性が増加する程度です。さらに過剰摂取が続き、ひどくなると手足の自由がきかなくなり、疼痛、硬直、異常な骨形成等(運動障害性フッ素症)が生じますがめったに見られません。

フッ化物の安全性

さて、フッ化物の中毒症状についてやや具体的に述べましたが、ここでフッ化物洗口に用いられるフッ化物水溶液の濃度についてご説明します。
 保育・幼稚園、小中学校で集団として行う場合、週5回法と週1回法があります。週5回法では、0.05%フッ化ナトリウム溶液(フッ化物イオン濃度225ppm)を、週1回法では0.2%フッ化ナトリウム溶液(同900ppm)を用います。週5回法は、主に保育・幼稚園で採用されています。
 保育園児の洗口後の口腔内残留率は約10%と言われており、週5回法の場合約0.2mgのフッ化物が口腔内に残る計算です。この量は、お茶をコップ1~1.5杯飲んだときに摂取するフッ化物の量に相当します。また、体重20kgの就学前の子供さんが7mlの水溶液で洗口したとします。同じく週5回法の場合、7ml中のフッ化物量は1.6mg(週1回法では9mg)。上で述べたように中毒量は1kgあたり約5~10mg。体重20kgだと100~200mg。 この一回分の洗口液を万が一全量誤って飲んだとしても急性中毒は起こらない分量であることが理解できると思います。
 高濃度のフッ化物が含まれた飲料水を長期間飲み続けないと発現しない慢性中毒も起こりえない分量であると言えます。さらに、歯の形成期でのフッ化物過剰摂取が原因で起こる歯牙フッ素症に関して言えば、洗口を開始する4歳までに永久歯の歯冠はほぼできあがっているのでこれも発現することはありません。下の図を見ていただくとフッ化物洗口法が中毒症状の起こらない分量で行われる、極めて安全性の高い予防法であることが判ると思います。

一度に誤ってフッ化物洗口液を飲み込んだ場合の量
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