
歯 周 病
歯周病のはなし
歯科領域の疾患は大別すると「カリエス(虫歯)」と「歯周疾患(歯槽膿漏)」に分けられます。
現在、わが国では四十歳以上の90%以上が、歯周病にかかっています。
この病気の特徴は①ポケットの形成、②歯肉からの排膿(歯ぐきから膿が出る)、③歯の動揺(歯がグラグラする)です。
ポケットを説明しましょう。歯肉の端から少し深まったところで、歯肉と歯が付着しています。この溝を歯肉溝といいます。これは、約1~3ミリの深さです。歯肉が炎症を起こすと、この溝が深くなり、これを歯周ポケットと呼びます。
歯周病は歯肉の病気だと思いがちですが、歯肉のほかに骨やその他、いろいろな所を侵す病気で、歯肉に限局されたものではありません。
健康な歯肉というものを文章で表すと、色は血管の分布、色素の量によって変化しますが、原則的には淡いピンクです。形は、歯と歯のすき間をふさぎ、一歯ずつ弧を描いて接しています。
歯周病の自覚症状としては、歯肉からの出血や歯の動揺、口臭があります。
これらや三大症状(①~③)に心当たりのある人は、他人に迷惑をかけない『口臭道徳』を守るためにも、一度歯科医院で診てもらってください。歯周病は、恐ろしい沈黙の病気です。
歯周病は遺伝?
歯周病(歯槽膿漏)は遺伝による病気ではありません。特定の嫌気性グラム陰性桿菌群が感染して増殖し、それに対する人間の抵抗力のバランスに破綻が生じて発生、進行する「感染症」です。最近の研究ではプロフィロモナス・ジンジバーリス菌、アクチノバチラス・アクチノマイセコミタンス菌などやスピロヘータの名前が挙がっています。虫歯菌の代表選手ストレプトコッカス・ミュータンス菌は母親からその子供に感染することが解明されていますが、歯周病菌の感染経路はまだよく分かっていません。しかし、感染症ですから、食生活や生活習慣が似通っている親子の場合、同じような経過をとることも考えられます。
歯周病の治療を行うに当たって、歯科医は患者さんにプラーク(歯垢、細菌の塊)が残らないような徹底したブラッシングを求めます。これは歯肉の縁より上の細菌を取り去ることを目的としています。
歯石を除去するのは、歯肉と歯の間の溝(歯肉溝、ポケット)の中の歯周病原菌を除去していることにほかなりません。しかし、いったん除去しても、歯周病原菌は50~90日で舞い戻ってくるといわれています。従って、そのころにポケットの中をきれいに掃除する必要があります。これを「プロフェッショナル・トゥース・クリーニング」といいますが、一定の期間をおいてこのプロフェッショナル・トゥース・クリーニングを繰り返すことが歯周病治療の効果を持続させるために必要なのです。もちろん、この間、プラークが残らないようにブラッシングが必要不可欠なのは言うまでもありません。
より健康な歯肉をより長く維持するためには、一度歯石を取り去れば治療は終わった、と思わないで、一定の期間をおいて歯科医を訪ね、ブラッシングはよくできているか、歯石が付いていないかを調べてもらい、順調なら『プロフェッショナル・トゥース・クリーニング』を、問題になるところがあれば『再治療』を受けることをお勧めします。
歯周病で歯が抜ける?
健康な歯は、見えている部分の1.5倍ほどの長さの歯根をもっています。そして、この歯根は歯槽骨というあごの骨の突起の中に埋まっています。
歯根と歯槽骨の間には0.2ミリほどのすき間がありますが、歯根膜という繊維でしっかりとつながっています。そのため、歯は少々の力ではびくとも動きませんし、堅い食べ物をバリバリとかみ砕けるのです。
このように歯を支えている組織を歯周組織といいます。歯が十分に機能するためには、大変重要な組織です。
歯周病(歯槽膿漏)にかかると、歯を支える歯周組織が破壊されていきます。歯周組織の破壊は、歯と歯茎との境目から始まり、歯根に沿って次第に深く、先端の方へ進んでいきます。破壊がある程度以上に進むと、歯はその支えを失って、かむ力に耐えられなくなり、グラグラと動き出します。
歯が動くほどになると、歯周病はかなり進行しています。この状態で治療を受けたとしても、破壊を免れた残りの歯周組織だけで歯を支えることになり、もう健康な時のように堅いものを自由にかみ砕くことはできません。歯周組織の破壊された部分の歯根は露出し、歯が抜け出てきたように見えます。また、隣り合っている歯と歯の間が空いて、美しさも損なわれます。
十分にかめるようにするため、数本の歯を連結するといった治療などを施すこともあります。しかし、このような状態を長期にわたって維持していくには、大変な努力が必要です。少しでも油断すれば、歯周病はたちまち再発し、努力して残してきた歯周組織の破壊がさらに進行します。そして、ついには歯が抜けてしまうのです。
初期の歯周病は痛みがなく、気が付かないのが特徴です。歯科医の診察を受け、大切な歯周組織の破壊が進行しないうちに発見し、治療することが重要です。
さてここで、一度破壊された歯周組織の再生という『夢の治療』が、近い将来には実現しそうだということをお知らせしておきましょう。しかし、この治療法でも歯が失われては治せません。やはり、早期発見、早期治療が何より大切です。
口臭の原因は何?
口臭の原因には次のようなものが挙げられます。
【生理的口臭】
●早朝時の口臭
人間の吐く息は、全く無臭ではありませんが、それほど強くはありません。しかし、起床時には軽度の口臭があります。これは、睡眠中に唾液が減少して自浄作用が低下し、口腔粘膜の乾燥、剥離が生じるためです。
●空腹時の口臭
健康人でも空腹時に口臭が出ることがあります。この原因は不明で、全身的な因子が考えられています。
●月経時の口臭
女性の場合、月経時に口臭が起こることがあり、特に月経困難者で強くなることが多いようです。
●ストレス性口臭
神経の緊張、疲労があると口臭の出ることがあります。これは、神経の緊張により、唾液の分泌が減少するのが原因と考えられています。
●年齢の増加による口臭
口臭は、年齢の増加に伴って増加するといわれています。これは、年齢の増加に伴い、唾液の分泌が減少するためと考えられています。
●食物による口臭
ニンニク、ニラ、ネギなどを食べた後や飲酒後に、生理的な口臭と混在して、不快な口臭を出すのは、日常的に経験することです。
【病的口臭】
●口腔に起因する口臭
虫歯、歯周病(歯槽膿漏)、口内炎、潰瘍が原因で、健康な方でも口の中の清掃が不十分な場合は起こります。
●口腔以外に起因する口臭
肺結核、慢性胃炎、便秘、白血病、悪性貧血、糖尿病、尿毒症、癌などが原因で起こります。
●心因性口臭
口臭を本人だけが自覚し、他人には分らない口臭を「自臭症」といいます。口臭に敏感になっている方に多いようです。
以上が主なものですが、ほとんどの場合は口腔内の汚れに原因があります。「歯は磨いているのに口臭が消えない」というのは、清掃が不十分なことが多いようです。
口内炎について
ひと口に口内炎といっても水泡状のもの、赤くなったりただれたりするもの、あるいは潰瘍状になるものなど、いろいろ症状があります。
一般的に、口内炎のうちで最も多いのが潰瘍状になるもので、専門的には「アフタ性口内炎」や「褥瘡(じょくそう)性口内炎」といわれるものです。
「アフタ性口内炎」というのは直径2~5ミリの境界が明らかな円状の潰瘍のことで、周りが赤くなっていて触れると大変痛いものです。数は一つの場合や幾つもできる場合があります。だいたい1週間から10日ぐらいで治りますが、人によっては数個のアフタができては消え、またできる、ということを何度も繰り返す場合があります。
原因については現在不明とされていますが、体の中の「免疫」が関係しているのではないか、といわれています。また、直接の原因ではありませんが、精神的な強いストレス、環境の変化、胃腸障害、疲れなども関係しているようで、口の中が汚れていると治りにくくなります。
次に「褥瘡性潰瘍」ですが、これは虫歯の穴が大きくあくなど歯の一部が鋭角になっている場合や、合っていない入れ歯、金属冠などの刺激によって起こります。また、水泡ができる口内炎には「ヘルペス性口内炎」などがあり、原因はウイルスといわれています。
口内炎と思っていてもときには別の病気の場合もあるので、治りにくい場合は専門医へお越しください。
歯石を取りたい
歯の表面に付いているネバネバした糊のような物質を歯垢といい、この成分の大部分は、細菌と細菌が作り出した多糖類(ネバネバの成分)、食べ物の残りかすなどです。
この歯垢をそのままにしておくと、細菌の作る酸や毒素によって虫歯や歯周病の原因となります。取り除くには、柔らかめの歯ブラシを、鉛筆を持つように握り、同じ場所を前後に細かく20回ほど振動させた後、歯ブラシの幅だけ移動させ同じことを繰り返す「スクラッピング法」という磨き方が効果的でしょう。それと併せて、食事の中に一品は必ず繊維の多い野菜などを取り入れ、ひと口30回といわれるようによくかむことも、歯面の清掃に役立ちます。
歯石とは、取り除かないでそのままにしていた歯垢の上に、唾液から遊離したカルシウムが沈着して固くなった(石灰化)ものを指します。放っておけば機械的な刺激と細菌の出す毒素によって歯肉の周辺で炎症を起こすだけでなく、歯根の表面にも歯石が沈着します。そして次第に歯を支えている歯槽骨を溶かすため歯が動揺し、しっかりとかめなくなる歯周病(歯槽膿漏)が進行します。
この歯石は唾液腺の開口部である、下の前歯の内側によく付着します。固く付着した歯石は、歯ブラシでブラッシングするだけではなかなか取れません。できるだけ早く歯科医に行き、除去してもらうことをお勧めします。
大切なのは、日ごろから丁寧なブラッシングを行い、できるだけ歯垢をためないことです。